特集

MEET THE ARTISTS Vol.2 【開催レポート】藤倉大×若林恵×パスカル・ロフェ「コンテンポラリーとストラクチャー」

 

さまざまなアーティストの魅力に、新たな側面から迫るイベント「MEET THE ARTISTS」。その2回目が、10月28日(日)、渋谷にあるTSUTYAYA本社で開催された。今回のゲストは、ロンドンを拠点に活躍する現代音楽の作曲家・藤倉大、フランス国立ロワール管弦楽団の音楽監督を努めている世界的指揮者・パスカル・ロフェ、元WIRED編集長にして現在は黒鳥社を立ち上げ、編集者・音楽ジャーナリストとして活動する若林恵の3人。「ストラクチャー(構造、仕組み)」をキーワードにトークセッションが繰り広げられた。

 

藤倉大 × パスカル・ロフェ

新しい音楽が生み出される瞬間

 

第1部のセッションは藤倉大×パスカル・ロフェ。「何も話すことを決めていない(笑)」(藤倉)と言いながらも、長年の盟友同士らしく「作曲家と指揮者・オーケストラの関係。その間でどうやって新しい音楽が生まれていくのか?」が、濃厚に語られていった。

藤倉が「新しい作品(のスコア)を見た時にまずどう思うのか」尋ねると、ロフェは、新しい作品に出会った時の気持ちを、「一晩中降り続いて、まだ誰も歩いていない雪を前にしたような感覚」だと喩え、そんな新しい世界に足を踏み入れるのが好きなのだと話した。

ロフェから藤倉には、「スコアを書き終えてそれを手放す時の気持ち」が質問された。藤倉は「20代の頃は全てをコントロールしたかったので手放す時は大変だった」と振り返りつつ、同じ曲でも指揮者、オーケストラ、演奏する時間によって変化するが、重要なのは、どのくらい正しく演奏されているかということではないのだと話した。そして、「演奏家の技術力、想像力によって、自身の作品に羽根がついて飛んでいく」と、作曲家と演奏家のコラボレーションによって新しい音楽が生まれる瞬間を表現した。そんなふうに、「演奏家が自分のベストを尽くせると思う作品を作りたい」(藤倉)と力強く語る姿も印象的だった。

また、ふたりとも、「音楽はともに作り上げていくもの」だというところで意見が一致。「音楽作りは分かち合うもの。指揮者が天才だと言われることもあるが、天才なのは作曲家たちで、指揮者ではありません。指揮者とはフィルターであると私は思います」とロフェが言うと、藤倉も「オーケストラは共同作業で音が鳴る。一人とか二人にフォーカスが当たるものではない」と話すのだった。

 

 

若林恵 × 藤倉大

オーケストラはコピーバンド!?

 

続く第2部「若林恵×藤倉大トークセッション」は、「藤倉さん、“オーケストラはコピーバンドだ” って言ってたよね(笑)」という若林による暴露(?)から幕を開けた。

「正確にいうとオーケストラは、もう亡くなった音楽家たちの同じ曲をずーっとやってるからコピーバンド、という意見をどこかで読んだことがあるだけ。・・・僕の意見ではないですよ(笑)」と藤倉。一方「オーケストラは音がでかいから苦手」だという若林だったが、話題はやがて「現代と音楽の在り方、組織論」に──。
若林が近代オーケストラが苦手な理由のもうひとつは、「トップダウンの構造が近代的軍隊の考えに似ているから」なのだという。「近代的オーケストラと比べると、ロックバンドは家族でもなく会社でもない。仲間が集って、原則としては“平等”の面白い組織。そういう民主的で、プロジェクトごとに人が集まる働き方が今後の働き方なんじゃないかな」と自論を展開した。
それを受けた藤倉は、自身の楽曲制作の特徴である“コラボレーション”について例をあげ、ギター奏者・村治奏一や、三味線奏者・本篠秀慈郎らとチャットなどで会話をしながら作曲をする様子を解説。トップダウン構造と対照的であるその手法に、作曲の現場における“新たな仕組み”が生まれていることを感じさせてくれた。

 

 

藤倉大 × パスカル・ロフェ × 若林恵

オーケストラこそが新しい組織モデル

 

最後は3人によるトークセッション。

ロフェが「オーケストラは過去のものではない。ストラクチャーは最も現代的なもの。指揮者がいてみんなそのとおりに動いているというものではない。その指揮者が明日仕事があるのか決めるのは楽団員だ。そういう意味では企業と同じだ」と口火を切る。
これには若林も「音楽自体もそれまでの様式を破壊していくから、演奏する主体も変わっていかざるをえない」と賛同。
続けてロフェは、15~20歳の世代がオーケストラを聴く機会が少ないことについて「バッハを聴くよりもストラヴィンスキーを聴く方が現代人の感覚と合いやすいことはごく自然なこと」とし、藤倉も「数百年前の音楽を理解するところから始めるよりも、現代から過去へ遡る方がピンとくる」と一致。オーケストラを聴く入り口がどこであるかということは非常に重要であるという文脈から、ロフェはジョン・ウィリアムズをはじめとする映画音楽作品を演奏することも、若い世代を引き込むに当たっては理にかなっていることだと語った。同時に、クラシックの象徴であるベートーヴェンの交響曲第5番のような作品は、一般のリスナーには届きにくいかもしれないが、決してなくしてはならない。分かち合うべき音楽であることを指摘。「(ベートーヴェンのような音楽は)まだまだ響かなければならない。それはどのような社会をみんなが求めているかによる。子どもが地下鉄の中で自爆するような社会なのか、それとも美しいものを求める社会なのか」という言葉に会場に集まったお客様たちも深く頷いていた。

 

 

トークセッションの後半では、テーマは音楽から社会の構造にまで及んだ。
藤倉が以前、肩書など関係なく“みんなで”「今までに聴いたことのない音を作るワークショップ」を行ったところ、そこに参加した大手企業の社員が同じことを会社で行い、社内のヒエラルキーをなくしたという話を披露すると、若林は、地方創生や都市の開発などコミュニティを作る時を例に出し、「トップダウンで何かを行うのは過去のもの。しかしボトムアップだと合意形成できない。そうなると新しいモデルが求められてくる。その新しいモデルが、 “オーケストラ”(の仕組み)なのではないだろうか」と、音楽と社会の関わり方を示唆した。

他にも、欧米の楽団に投じられている公的資金のことや、変容しつつあるオーケストラでの指揮者の役割についてなど、さまざまなことが語られた。その中でロフェが話した言葉がとても印象的だったので最後に紹介しておこう。ロフェは会場からのある質問に答えて「音楽はすべての人のために書かれている」と言った。国籍、年齢、性別などにかかわらず、音楽はあらゆる人のために存在している。だからこそ、音楽は私たちの人生に深く関わり、社会のストラクチャーたりえるのではないか──そんなことを感じさせたイベントだった。

 

入り口ではユニークな照明がお出迎え。幻想的な空間を演出した。
Heng Balance Lamp
LightCube

 

会場では、最新テクノロジーを集約したコーヒーメーカーで、コーヒーが振る舞われた。
GINA
bluetoothとアプリであなたの好みを完全に再現する未来のコーヒーメーカー。